配信:衣田 史景 2016年1月17日 20時35分配信 | カテゴリ:社会
警察庁が15日、昨年一年間の全国の自殺者数の速報値を公表した。それによると、昨年の自殺者数は2万3971人で、6年連続の減少となった。自殺者数が2万5000人を下回ったのは、1998年以来18年ぶり。
自殺者を男女別でみると、男性は全体の69%を占め1万6641人、女性は7330人。月別では3月が最も多く2300人、2月が1766人で最も少ない。3月~7月までは自殺者が各月で2000人を超え、2000人を超えた月は(1月、3月、4月、5月、6月、7月、10月)7つだった。
内閣府自殺対策推進室が発表したデータによると、都道府県別では岡山県(前年比62人増)、熊本県(35人増)、石川県(34人増)が前年に比べ自殺者が増加した。
6年連続減少は喜ばしいが、まだまだ多い自殺者数
自殺者が6年連続で減少したことは日本にとって喜ばしいことだ。だが、先進国の中で最も自殺者数が多いといわれる日本社会。まだまだ対策を取っていかなければならない。平成26年度の内閣府が発表した自殺対策白書によると、日本の自殺死亡率は25.6%で主要7か国の中でも高い数値を示している(主要7か国の平均は20.74%)。
また若年層(15~34歳)の世代で自殺が死因第一位となっているのは、先進国でも日本だけであり、若い世代へのケアが急務である。日本の若者は、諸外国の若者に比べ、自己肯定感が低いことでも知られる。日本では自己肯定感を阻害する”謙遜する人間こそまとも”、”出る杭は打たれる”、”個性よりも集団重視”などといった文化や価値観が根強く、文化的な面から変えていく必要がある。
文化に加え一度レールの上から外れてしまった人間は、まるで人間失格かのような扱いを受けてしまい、再びレールの上に戻るためには並大抵ではない。それは不登校、新卒で就職を逃してしまった者、何らかの理由で中退してしまった者など多岐に渡る。もし何らかの理由でレールから外れてしまった若者の将来への絶望感は、計り知れない。
未熟さというのは、20代ではあって当たり前であると思うが、若いうちから”立派な人間”か”まともな人間”でなければいけないというプレッシャーが日本の若者に蔓延し、また国民同士でけん制しあっているように思う。まともじゃない人間をネットのなかで他人と共有し批判しているが、実は自分もまともではない部分を持っている。そんな閉塞感を若者には欠かせないネット社会で感じてしまう。
レールの上から外れてしまった若者たちへの復活のチャンスをどれだけ与えられるか、また人は”未熟な面”や”まともじゃない部分”があって当たり前であり、それを持っているからと言って”人間失格”という訳ではないということを若者の間にいかに根付かせるかが、今後、若者の自殺率を下げることに繋がるだろう。
男性へのケアを早急に
自殺のデータが示しているように、男性の自殺が全体の7割を占めている。これは日本だけが例外ではなく、WHOによれば世界でも女性の3倍男性が自殺しやすいとされている。
この数字は社会的に過度な負担が男性に圧し掛かっていることを如実に現している。現実社会においても、男性が愚痴を吐きにくい、相談しにくい側面が感じる場面が多々存在する。「女々しい男」「子どもっぽい(笑)」などという言葉が、男性批判の際に使用されることが多いことを鑑みると、男性は女性に比べ”我慢”しなければならない場面は多い。
”男性より女性は弱いから守られるべきもの”という概念が社会では常識かもしれないが、自殺率の性差を見るとむしろ今ケアされるべきなのは男性のほうである。女性はケアしなくてよいなどと言っているわけではない。男性へのケアが少ないことを懸念しているのだ。日本の自殺者数を下げるためには、男性へのケアは必須である。
神経生物学者のカトリーヌ・ヴィダルは、失業時や離婚時に男性が社会から孤立してしまいやすい点を指摘し、女性は失業や離婚しても社会に取り込まれやすいのに対し、男性は孤立してしまいやすいことが男性への大きな負荷となっているとしている。
我々が何気なく相手を評することが、誰かに負担を押し付けている面があることを忘れてはいけない。上述の理由だけではなく、日本は文化であったり、環境であったり、国民の価値観など、自殺しやすい理由がもっと多く隠されているように思う。世界でも経済的に裕福であるはずの日本が、なぜこんなにも自殺者を出してしまうのか。我々日本人はその”可笑しさ”に気づかなければならない。

