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【映画感想】容疑者Xの献身は、ただの推理映画に終わらないヒューマン映画だ

愛する人のために、どれだけ犠牲を払えるか

当作品との出会いは、数年前の大晦日直前にテレビ放送されたものを録画して、正月過ぎた当たりで見たことだった。人気ドラマ「ガリレオ」の劇場版ということで、暇つぶしになればと思って録画しておいたのだ。そもそもガリレオシリーズは見たことが無かったため、東野圭吾のガリレオシリーズを最初に見たのは、この容疑者Xの献身ということになる。

 

(※当記事は作品の内容、物語の核心に迫る記述がされています。ご留意の上記事をお読み下さい。)

 

推理映画と言えば、誰が被害者を殺したのかを推理し、探偵が犯人を捕まえるという予定調和な流れがある。当作品も予告編では「天才物理学者VS天才数学者」というキャッチコピーが画面を踊り、頭脳戦が行われる印象を受けていた。しかし、観賞後その印象は良い意味で裏切られることとなる。

 

高校で数学を教えている石神哲哉(堤真一)は、34歳にて大学の助教授になった湯川学(福山雅治)から「天才」と言わしめるほどの人物だった。その石神は、ある日人生に絶望し、自殺しようとしていたところ、隣に引っ越してきた花岡靖子(松雪泰子)と花岡美里(金澤美穂)親子が引っ越しの挨拶に来宅したため、自殺を思いとどまることとなる。

 

石神はそんな花岡親子に”心の癒し”を感じながら生活するようになっていた。そんな花岡親子がある時、暴力的な元旦那にしつこく付きまとわれ、殺害してしまったことを隣人である石神は物音で察知する。そして、この親子を守るために石神はその天才的頭脳を発揮していく…。

 

ガリレオの劇場版となれば、てっきり主人公の湯川(福山雅治)と内海薫(柴咲コウ)が大活躍する物語かと思っていたが、石神と花岡親子の物語であると言って良い。むしろ湯川と内海はサブキャラクターと言ってもいいくらいだ。

 

私は石神という男が、花岡親子を守るために取った手法、その思いに驚きを隠せなかった。そして、推理映画を見て”愛”を考えさせられるなどとは思いもよらなかった。数々の映画を見てきたが、ここまで驚いたのは他にあっただろうか。

 

天才的な数学の持ち主であった石神は、自ら殺人犯となり、そして好意を持っていた花岡靖子にストーカーだと思われてでも、彼女達を守ろうとした。劇中本当にストーカーになったのかと思った私は、実に表面的なものしか見ていないことに気付かされる。それが作者の狙いであったとしても。彼の本当の思いを知った時、多くの人が私のように心打たれたに違いない。

 

何が彼をそこまでさせるのか。劇中冒頭にも出てきたが、”愛”という非論理的なものが、論理的であるはずの天才数学者を動かす原動力となっていることが実に興味深い。だが、それは何も石神だけが特別と言う訳ではないはずである。我々人間全員が”感情”というものに支配され、多く左右されているからだ。それほど感情というものは時に恐ろしく、時に凄まじく、時に感動させるのだ。そしてどんな人間でも、その感情を持っている事実がそこある。

 

ラストの場面に花岡靖子が石神の元へやってきて、「私たちだけ幸せになることは出来ない」「一緒に罪をつぐなう」「ごめんなさい」と言い、石神の花岡親子を守る計画は頓挫する。誰も幸せにならない結末に石神は「どうして」と泣き崩れてしまう。しかし、私はこれでよかったのだと思う。この「どうして」という言葉には、石神の様々な思いが含まれていると感じた。

 

「自白しなければあなた方親子は守られるのに」「私のことを何故考えるのか」……どうしてと。この瞬間石神は計画が頓挫した絶望感と、自分のことを考えてくれる人がいる、それも大切に思っていた人が…という喜びの感情が同時に沸き起こったはずだ。人生に絶望していた石神。人を犠牲にしても自分たちだけ幸せになればいいという人間が多い時代に、好意を持っていた女性はそうでなかったことが、彼にとってどれ程大きな出来事だったか想像に難くない。

 

ただ石神は1つ大きなミスを犯した。彼はストーカーとして振る舞ったあと、最後に彼女への感謝の手紙を送っている。完全なストーカーになりきらなかったことにより、彼女達に石神に対する罪悪感を植え付けてしまった。だが、石神も人間であり、好意を持っている人からストーカーとずっと思われ続けるのは、堪え難いことだったのだろう。もちろん最後に純粋に感謝の気持ちを伝えたかったということもあっただろうが。ただ、石神も1人の人間だったのだ。

 

映画として決してテンポが良い作品とは言えないが、石神のひとつひとつの言動や行動、その思いの真実を知った時、あなたはきっともう一度見返したくなるだろう。

 

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